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2015-01-13

三谷幸喜の「オリエント急行殺人事件」

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フジテレビで2夜連続で放送された、原作/アガサ・クリスティー、脚本/三谷幸喜のドラマ「オリエント急行殺人事件」を見ました。おもしろかったです! 思いのほか原作に忠実で、クラシックなミステリを久々に楽しみました。

以下、ネタバレなしの感想です。

 

フジテレビ「オリエント急行殺人事件」公式サイト


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ミステリーの女王、アガサ・クリスティーの代表作を、三谷幸喜が昭和初期の日本を舞台に翻案。下関と東京を結ぶ超豪華寝台列車「特別急行・東洋」で起きた殺人事件の謎に、名探偵エルキュール・ポアロならぬ「勝呂武尊(すぐろ・たける)」(野村萬斎)が挑む……という趣向になっています。

第一夜は、ほぼ原作小説の9割までを描きます。すなわち、事件が起こって勝呂が調査を行い、容疑者を洗い出して推理し、真実を突き止めるまで。第二夜は、事件の首謀者の回想のかたちで、犯人側から殺人を実行するまでのドラマを、オリジナルで描きます。

原作小説を読んでいるこちらは、当然犯人も結末も知っているわけですが、全体に三谷さんの原作への敬意が感じられて、ミステリ好き、そしてアガサ・クリスティー好きとして、今回の趣向を楽しむことができました。

 

舞台が日本でどうなるかと思ったのですが、いやーこれが似合ってる! 豪華列車の美術は華やかで雰囲気も見ごたえもあるし、舞台劇を思わせる芝居がかったセリフ回しが、「昭和初期」という時代背景を前提に、ちゃんと成立しています。

全体に、とてもクラシックで正統派なドラマ作りだなと感じました。原作小説や、映画やドラマのポアロになじんだファンが、アガサ・クリスティーものとして違和感なく、するっと世界に入っていける感じです。

勝呂のキャラクターが、かなり作りこんだ珍妙なキャラになっています。デビット・スーシェが演じていたドラマのポアロに似ている……というか、セリフまわしが吹き替えの熊倉一雄のしゃべりに、すごく似て聞こえます! これは三谷さんが意識したのか、野村萬斎さんのイメージなのか、はたまた原作をリスペクトするとみんなこういうポアロになるのか? ちょっと聞いてみたいですね。

クラシックというか、そもそも原作小説がミステリとして非常にクラシックなわけです。放送の最後にも、次のような言葉が画面に出ます。

このドラマは1934年に発表された原作をもとにしたフィクションです

細かいところを言うならミステリ的に、見ていて気にならないわけではないんですね。ナイフに犯人の指紋がべったりついてるんじゃないの? とか。刺したときに返り血を浴びるんじゃないの? とか。

乗客からの聞き取りだけで、驚異的な速度で真実に近づいていく勝呂の推理も結構強引だし、関係者を全員集めて名探偵が謎解きの披露だなんて、とてもリアリティのある展開とはいえません。

さらに歴史に詳しい人から見れば、「そんなわけないじゃん」というツッコミどころがあるでしょう。

でもそれらが全部「アリなんですよ」という宣言が、上の文言なわけです。様式美に満ちた「ミステリ」なわけです。フィクションであり、ある意味ファンタジーなんです。様式美というなら、憎むべき相手への仇討ちの目論見を描く第二夜は、まるで時代劇「忠臣蔵」の趣がありました。

派手なアクションもなく、列車内の会話劇のみで推理が進む展開は、とても小説的、あるいは舞台劇的ですが、むしろその良さを実感できたドラマでした。

キャストでは、特に女優陣が素晴らしかったです。富司純子の美しく凛としていること! 草笛光子の貫禄! 松嶋菜々子は強くて、杏は茶目っ気たっぷり。男性俳優陣では真面目で朴訥な車掌を演じる西田敏行の演技から目が離せませんでした。あと、勝呂とともに推理を進めるトリオ役の高橋克実と笹野高史がいい味出してました。そして沢村一樹が演じる軍人、能登大佐が渋い。カッコよかった!

野村萬斎の勝呂(ポアロ)は、よかったです。乗客からの聞き取りのシーンで、あまりの空気読まなさに笑ってしまったのですが、そう、ポアロってこんな男でした。名探偵って……あんまり周りにいてほしくないタイプの人間ですね(笑)。

優雅なファッションも美しく、見ごたえありました。そして雪の中を煙を吐いて走るSL! あれはCGなのかな、どうやって撮影したのかな。重厚な存在感が心地よかったです。

 

いろいろ考えていると、ミステリも時代劇もSFもファンタジーも、リアリティがどうの矛盾がどうのって、面倒くさい時代になっちゃったなあ……という気分がふつふつとしてきました。いいじゃない、これぐらいおおらかでも。見て楽しむべきところはほかにあるんですから。

 

沢村一樹が演じた役を、映画ではショーン・コネリーが演じていたそうで。まだ見ていない映画や懐かしい原作小説に、触れてみたくなりました。


シドニー・ルメット監督「オリエント急行殺人事件」(1974年公開)


アガサ・クリスティー「オリエント急行の殺人」(ハヤカワ文庫・クリスティー文庫)

 

三谷幸喜がこれに味をしめて、野村萬斎の勝呂シリーズで、アガサ・クリスティーのほかのポアロものをまたドラマ化してくれないかな。あるいは、ミス・マープルものの翻案もいいと思う! ちょっと期待してしまいます。

 


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このブログを書いている人
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宮野真有(みやの・まゆ)

東京都練馬区在住。フリーランスのフォトライター。

「楽しんで」「長く続けられる」「自分らしさが発揮できる」文章を大切に、教える・聞く・書くなどの文章関連のサービスを個人向けに行っています。

またブログでは、「植物」×「写真」×「文章」の3つをキーワードに、ベランダガーデニングや公園散歩の楽しみを発信しています。

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