あの日の一本松。(岩手県陸前高田市)
まだ生身だった頃の、あの一本松です。
この頃、私の愛用のカメラはRICHOのR10というコンパクトデジタルカメラだった。広角28-望遠200mmのレンズと1cmマクロがお気に入りの機種で、身近な花も旅行先の風景も、すべてこれで撮っていた。
いつも持ち歩いて、目についたものおもしろいと思ったもの、何でも撮っていた。誰にも見せない写真を撮りためて、ひとりで楽しんでいた。
2011年3月11日の写真は、1枚もない。
というか、ここからしばらくまったくない。次の写真は、桜の開花から始まっている。
今思えば、記録として撮影していてもよかったんじゃないかと思うけれど、そういう気持ちにならなかった。
電車の本数が少なくなって駅にあふれる人も、物がなくなってからっぽの店も、ニュースとして撮らないことで、「きっと今だけのこと、すぐ終わる」と信じようとしていたと思う。水や食品を毎日運んでくれる流通の人、店に並べてくれる小売りの人はヒーローで、尊敬すべき対象になった。
2011年の年末に、仕事で被災地にいっていた義弟の案内で岩手県に行った。想像を越えた力で破壊された町も美しい空の色も心に痛かった。衝撃を受けながら見るものをとにかく撮りつづけ、夕暮れに暗くなっていく町の中でも構わずシャッターを押した。
撮った写真はやっぱり誰に見せるあてもなかったけれど、「暗くてもちゃんと撮れるような、コンデジよりずっときれいに残せるような、いいカメラで撮りたい」「そして、何かの方法で人に写真を見せたい」と思うようになった。思えば、あの日のインパクトは私の今につながっている。
写真を見ていると、あのときの気持ちがよみがえる。当時思ったより、この国をとりまく絶望は乾きつつ深まっている気がする。終わってもいないし、まだ始まってもいない。忘れないで、きちんと考えて行動していきたい。
震災の日に役立ってくれたPHS(すぐに自宅と通じた)と、紙の地図(混雑する駅を避けて、自宅まで最短距離をとれた)は、今も毎日持ち歩いています。
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