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2014-08-17

NHKドキュメンタリー「君が僕の息子について教えてくれたこと」

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ここまでかみくだいて「わかる表現」をしてもらわないと、私たちは感動ひとつもできない。本当はもっと、気づいたり実行したりできることは、自分のすぐ隣の現実にあるかもしれないのに。

「自分にはわからない」「あいつはダメ」と相手を切って捨てるやり方では、たくさんのものが見えなくなる。一見わかりにくい感情や考え方にも、それなりの理があるんだと理解できたなら、相手のためではなく、自分自身がもっと「幸せ」になれるんじゃないか? そんな気持ちになりました。

NHKの「君が僕の息子について教えてくれたこと」に心を揺り動かされました。
日本の自閉症の少年、東田直樹さんが13歳で書いたエッセイが、アイルランドの作家、デイヴィッド・ミッチェルさんが英訳したことによって、世界20カ国以上で翻訳され、同じように自閉症の子どもを持つ親たちに大きな感銘を与えたという、60分のドキュメンタリーです。

以下、簡単にレビューします。

▼NHK「君が僕の息子について教えてくれたこと」
2014.8.16 23:00放送
http://www4.nhk.or.jp/P3229/26/

東田直樹さんは、会話がほとんどできない自閉症です。話しかけても唐突によそへ向かって歩き出し、窓の外ばかり見ている彼の姿を見ていると、「これは会話が成立しないな、できるだけ関わらないでおこう」と思ってしまいそうです。

そんな東田さんが書く文章が、心の奥底をさらけだした、とても美しい日本語であることにまず驚きました。なぜ、まともな言葉を発せない東田さんが、そんな美しく、人の心を打つ文章を書けるのか?
その秘密は、東田さんが「文章をつづる方法」にありました。それは独自の方法で、その手段を通してだけ、東田さんは「伝わる」日本語をつづることができるのです。

そして、東田さんが自分の思いを語ったエッセイは、自閉症の自分の子どもが何を考えているのかわからず苦しんでいる、世界各国の親の心を揺さぶりました。
なぜ自分の子どもは、奇矯な行動をとるのか? 何を幸せに思い、何をつらく感じているのか? 悩む親たちは、その答えを東田さんのエッセイの中に見ることになりました。理解は救いとなり、希望となって広がります。

番組は、東田さんのエッセイがどんな希望を読者に与えたか、そしてそれがどのように東田さん自身に帰ってきたか、広がる波紋をひとつひとつ追っていきます。
丸々60分というのは、たっぷりした長さですが、その分、東田さんのエッセイが様々な人に与えた影響の大きさを知ることができます。

何十年にもわたる苦しみを越えて、希望を見いだした親の涙に、こちらも思わずもらい泣きしそうになりました。
そして思うのです。ここまでかみくだいて「わかる表現」をしてもらわないと、私たちは感動ひとつもできないんだな、と。

表現が普通の人と違うからって何も感じていないわけじゃない。
自分を理解してもらえないのは、誰だって苦しい。
あいての気持ちに寄り添うって、どういうことだろう?
自閉症以外にも通じる話だと思いました。

再放送やオンデマンドで観る機会がありましたら、強くお勧めします。
特に、家族との関わり方で悩みを抱えている方は、ぜひ。


【追記】(2014.8.25)
「君が僕の息子について教えてくれたこと」のNHK総合での再放送が決定しました。見逃した方はぜひ。

  • 2014年8月27日(水)深夜1:30-2:29(8月28日(木)午前)(※九州、沖縄、京都以外)
  • 2014年8月27日(水)深夜2:30-3:29(8月28日(木)午前)(※九州、沖縄)
  • 2014年9月13日(土)午後3:05-4:04(※全国)

くわしくは、公式サイトでご確認ください。

▼NHK「君が僕の息子について教えてくれたこと」アンコール放送決定!(8/28、9/13)
http://www.nhk.or.jp/school-blog/300/195393.html

NHKオンデマンドでの配信も始まりました。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2014058016SC000/


「君が僕の息子について教えてくれたこと」を観て感じた気持ちは、認知症の高齢者がプライドと感情を取り戻すのを観た「ユマニチュード」の番組を観たときの衝撃に似ていると思いました。
こちらもお勧めしておきます。

▼NHK クローズアップ現代「見つめて 触れて 語りかけて 〜認知症ケア“ユマニチュード”〜」
2014.2.5放送
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3464_all.html


世界20カ国以上で翻訳され、ベストセラーになっている東田直樹さんの著書です。
『自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心』

2014年現在、22歳になった東田さんは作家として精力的に活動中とのこと。続編や、創作童話、絵本なども出版されています。
『続・自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない高校生がたどる心の軌跡』
『あるがままに自閉症です ~東田直樹の見つめる世界~』
『勇気はおいしいはず―東田直樹作品集』

【追記】(2014.8.19)
22歳の東田直樹さんのエッセイ、最新刊『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』が、2014年9月7日(日)、イースト・プレスから発売されます。
『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

(※以上はAmazonへのリンクです。)


【追記】(2014.8.19)
東田直樹さんが、ホームレスの方が売る雑誌「ビッグイシュー」に連載したエッセイ60回分をまとめた単行本『風になる』は、全国のビッグイシュー販売員を通じて購入できます。
定価1500円(税込)の半分の750円が販売者の収入になり、ホームレスの方への支援にもなります。

『風になる―自閉症の僕が生きていく風景』 東田直樹 著
http://www.bigissue.jp/books/

東田直樹さんのオフィシャルブログはこちらです。
東田直樹 オフィシャルブログ 自閉症の僕が跳びはねる理由
http://higashida999.blog77.fc2.com

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このブログを書いている人
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宮野真有(みやの・まゆ)

東京都練馬区在住。フリーランスのフォトライター。

「楽しんで」「長く続けられる」「自分らしさが発揮できる」文章を大切に、教える・聞く・書くなどの文章関連のサービスを個人向けに行っています。

またブログでは、「植物」×「写真」×「文章」の3つをキーワードに、ベランダガーデニングや公園散歩の楽しみを発信しています。

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