アントニオ・ザンブージョの、魔法の歌声。(ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015)
今年も、ラ・フォル・ジュルネ・オン・ジャポンに行ってきました。
一番の掘り出しモノは、ポルトガルから来た、民族歌謡「ファド」をベースにしたシンガー&ギタリスト、アントニオ・ザンブージョでした!
「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」は、フランス生まれのクラシックの祭典。日本で開催されるようになって、今年が第11回めになります。
毎年、5月の大型連休に丸3日をかけて、東京国際フォーラムを中心とした、有楽町〜丸の内エリアで開催されていす。2月から先行発売がスタートする有料公演に加え、一帯では無料コンサートや企画展示などが行われていて、お祭り気分でクラシック音楽を楽しむことができます。
今回のテーマは、恋と祈りといのちの音楽を意味する《PASSIONS(パシオン)》でした。これまで「ベートーヴェン」「バッハ」といった作曲家や、「ロシア」「フランス」といった国や地域をテーマにしていたところから趣を変えて、今年から、時間や地域を超越したテーマを掲げるようになりました。
赤ちゃんや小さい子供連れでもOKなプログラムも多数あって、子供がクラシック音楽に親しめるようになっています。また、東京国際フォーラムにはおむつ替えの場所や授乳室、有料公演チケットを購入した人向けの託児サービスがあり、子育てファミリーの参加も歓迎しています。
私は毎年、有料公演のチケットをとって、いくつもコンサートをハシゴして回るのを楽しみにしています。純然たるクラシックだけでなく、クラシックの枠からはみ出した、このお祭りのために海外から来たレアな演奏者のプログラムもよくチョイスしています。
2009年の《バッハとヨーロッパ》で来日した、ロシア民族音楽アンサンブルの陽気なおじさん4人組、テレム・カルテット。
2011年の《Les Titans -タイタンたち-》で来日した、ア・カペラ・ヴォーカルグループ、VOCES8(ヴォーチェス・エイト)。
どちらも忘れがたい印象を残してくれました。こちらも楽しく、彼らも楽しそうで、「ようこそ日本まで来てくださいました!」という気分になりました。
今年、そんなふうにしてチケットをとったのが、ポルトガルから来た、民族歌謡「ファド」のシンガー&ギタリスト、アントニオ・ザンブージョとお仲間たちの公演でした。
これがすばらしかった!
アントニオ・ザンブージョの音楽については、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの公式で、次のように紹介しています。
大家アマリア・ロドリゲスが発展させた同国の民族歌謡「ファド」に、ボサノヴァやモルナ等の要素や現代性を付与した、独自の表現で知られる。繊細でニュアンスに富んだその歌声は、男女両性が融合されたような独特の美と優雅さで聴く者の心を掴む。
http://www.lfj.jp/lfj_2015/performance/artist/detail/art_6.html
聴いた印象を語るなら、ほがらかで、あたたかくて穏やかで繊細。声音はなめらかで、感情豊か。落ち着いた口調で世間話を語るがごとく、恋人との会話を楽しむがごとく。時には独り言のよう、つぶやきのよう。
まるで南の海のサンゴ礁の砂浜で、よせてはかえすさざなみの音のように、心をなでる心地よい響きが、絶え間なく続く。心が解きほぐされていく中、切ない曲調に、不意に悲しかったときの感情がよみがえってきて、涙ぐみそうになる……。
歌だけではなく、口笛でメロディーの大半を演奏する曲もあり、響きのよい音色に驚いたり。簡単な合いの手を観客に入れさせて、笑いと一体感を引き出されたり。
そんな時間をたっぷり1時間15分、堪能しました。
曲は穏やかなのに、客席のボルテージがどんどん上がるという不思議な体験でした。拍手がどんどん熱っぽくなっていって、よみうりホール1,100席を埋めつくした観客が、つぶやくような繊細なアントニオの声に聴きほれているのが肌で感じられました。
合わせる器楽奏者たちがまたすばらしかった。
ベルナルド・クートが演奏する、マンドリンのようなポルトガル・ギターは、南国の明るい音色で、さざ波のように心をくすぐる。
リカルド・クルスが演奏するベースは、弦をはじくだけでなく本体を打つ打楽器としての音も交えて、穏やかなリズムを刻みます。
ジャオン・モレイラが吹くトランペットは、まるでホルンのような柔らかで深みのある、ちょっとハスキーなふたつとない音色。
ジョゼ・コンデが吹くクラリネットは、木管楽器の音色ならではのあたたかみと息吹を、曲に吹き込んでくれました。
そして、たまらない気持ちになったのは、私だけではなかったようで……。
コンサートが終わった後の聴衆の行動ときたら、まるでハーメルンの笛吹き男の笛で進みだした子供たちでした!
まず、こぞってロビーのCD売り場に殺到。そこで最新のCDが売り切れだとわかると、そのまま徒歩5分の東京国際フォーラムまで移動。地下・展示ホールの新星堂出展ブースで、あるだけのCDを購入し(私は過去のアルバムを3種を購入しました)、迷わず20時半からスタートするサイン会の列に並ぶ。
自分もやっといてなんですが、ホント、「人の心をつかむとはこういうことか……!」を、目の前で見る思いでした。
そしてサイン会に並んだ人たちがみんな、いい笑顔!
間もなく登場したザンブージョ氏も、演奏の疲れも見せず、ほがらかに笑顔で応対してくださいました。いただいたサインと記念の写真(希望者には全員撮らせてくださった)は、宝物です。
そして家に帰って翌日、買ってかえったCDをかけたら、一緒に行かなかった父も曲が気に入って、家族で笑顔でまたコンサートのことを話す、という……。
これはどういう魔法なのでしょうか。
ポルトガル語なんて、1ミリもわからないのに!
音楽の持つ力を、まざまざと目のあたりにした気分。
CDも素晴らしいけれど、あの演奏者と聴衆が呼応したライブ会場はやはり格別でした!
まちがいなく、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンで日本に来てくれてありがとう!」と言いたい演奏家です。出会いに感謝。
ラ・フォル・ジュルネ・オン・ジャポンは、2013年から2014年の2年間にわたり、クラウド・ファンディングにより寄付を募っていましたが、今年(2015年)からは、クラウド・ファンディングを実施しないことにしたそうです。
資金面で厳しいところはあるのだろうと思いますし、初めて行ったころに比べると、一帯の飾り付けが簡素になり、やや寂しいところもあります。
それでも、この「シロウトにもマニアにも、子供にも赤ちゃんにも車椅子の人にも、お金のある人にもない人にも開かれた、クラシック音楽の祭典」は、実施可能なかたちで、今後も開かれてほしいなあと、切に願います。チケットを毎年必ず買うのが、ささやかな応援のかたちです。
今年の出会いに、オブリガード(ありがとう)。
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